チェ 39歳の別れの手紙/スティーブン・ソダーバーグ/ベニチオ・デル・トロ

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チェ 28歳の革命に続き、チェ 39歳の別れの手紙が公開されました。

本作は、ゲバラがボリビアでの日々を綴っていた「ボリビア日記」に沿って描かれている。ボリビア日記は、捕えられる直前の10月7日までつけられている。その後の射殺されるまでのエピソードは関係者の証言などから描かれているようだ。

 ボリビア日記でのあの閉塞感。孤立。穴掘り。虫や気象条件や飢餓。喘息の発作。それが抜け道がないように繰り返し繰り返し日々続き、次第に追い詰められていく日々が淡々と、しかし生々しく記述されている。
 本作でもあの感覚が映画ならではの表現で見事に描かれている。


 TVから流れるフィデル・カストロの演説。革命の英雄、政府の高官を歴任したゲバラが消息を絶って数ヶ月、真実を公表する必要に迫られたカストロがゲバラからフィデルに宛てた手紙を読み上げる。
 キューバでの権利を放棄し、新たな道を進むべくフィデルへの決別を告げた有名な手紙だ。
 その内容は、フィデルとの友情と偉大な革命を成し遂げた誇りと新たな艱難な道に踏み出す決意ともとれるし、色褪せた過去の栄光と大国に翻弄されるキューバ(及びフィデル)への失望ともとれるものであったが。
 
 そして、ボリビアでラテンアメリカ開放の戦いへと赴く(コンゴ遠征のエピソードは割愛されている)前に、家族との最後の別れ。それは、秘密を守るために変装して”お父さんの親友”のおじさんとして、父としての正体を明かすことすらできない子供たちとの悲しい最後の時間であった。

 そして、ボリビアへ。
 アメリカの支援を受けた独裁者バリエントス大統領の支配するラテンアメリカの最貧国。革命を起こす機運があり地理的に南米の中央に位置し、ここを落とせば他国での革命活動も可能となる。そんな思惑があった。

 しかし、最初からつまづく。
 ボリビア共産党のモンヘからは協力を得られず(モンヘ自身の利権維持、保身のため)、早々にゲリラ軍は孤立無援となる。
 加えて、期待していた農民からの協力すらえられなかった。
 キューバでは少数のゲリラ兵から始めた闘争ではあったが、農民達の支援を受けて軍勢を増やし、都市部へと進出して市民の圧倒的な支持を受けて勝利を得た。
 一方、ボリビアではそうはいかなかった。キューバでは農民は家畜以下の扱いを受けバチスタ政権打倒に進んで加わる機運があったが、ボリビアでは確かに農民は貧しく搾取はされていたがバリエントスは前政権の農地改革を引き継いでいたし、各地に積極的に赴くなど民衆の指示を得る努力をしており、積極的ではないにしろ農民の支持を得ていたため、農民達は武器を取ってまで闘争する必要に迫られてはいなかったのだ。
 かくして、少数のゲリラ達はひたすら消耗していく。加えて、今回はアメリカがより強力な政府の支援を行っていた。兵器に加え、ベトナムでのゲリラ戦の教訓から得たノウハウを持った士官を派遣し強力なボリビア軍部隊を作り上げていく。

 追い詰められていくゲバラ達。ボリビアでの闘争を始めてから11ヶ月たった1967年10月には兵士の数は17名にまで減少し、再生も生き残る可能性もなくなっていた。
 運命の10月7日。彼が親切に接し、子供の病気の治療までした農民オノラト・ロハスの裏切りのために、政府軍に襲撃され全滅。ゲバラは銃も失い(弾丸を受けて故障)、ふくらはぎに弾丸を受けて捕えられた。

 そして10月9日銃殺される。

 
 普通に考えるならば、無謀の一言であろう。実現不可能な夢のために死にに行くだけのようなものだ。
 キューバで産業政策に失敗し、アメリカと旧ソ連の両大国に翻弄される現実。そこから彼が得た回答は、ラテンアメリカの開放というより非現実的な大きな試練。歴史を紐解けばいくつも見つけることのできる奈落へのコースだ。
 
 それでも何故ゲバラは偉大なのか
 彼は、日本人の愛するような美しい死に様を求めたわけでもなければ、全くの楽天家でもなかった
 あくまで革命家として、「人が人を搾取する」という邪悪な現実に、最善を尽くして闘いを挑み続けたのだ。
 そして同時に、革命家として人間として最高の存在、少なくとも自分の目指す尊い到達点を目指して苦難の道を歩み続けたのだ
 本人は、「自分はキリストとは対極にある人間だ」というようなことを言っているが、その苦難の道を進む姿はまさに”赤いキリスト”であったといえるのではないか?

 翻って、現在世界は、アメリカニズム。すなわち無制限の市場原理による搾取型経済が破綻して未曾有の経済危機にある。それでも、恐らくは各国は経済の建て直しは全力を尽くすだろうが(無論それは最優先だが)、人が人を搾取することで成り立つ経済は酷くなることはあれ、良くなることがあるとは今のところ想像もできない。
 
 この映画は、かつての偉大な人物を描いた。しかし我々はただ感動したで終わっていいのだろうか?
 少しでもいい。行動することが故人の思いに応えることではないだろうか?

 私事だが、僕は昨日40歳になった。ゲバラよりも一歳年をとったわけだ。
 一つの偉大な物語を作り上げた男を前に、何もせずに日々を過ごしてしまっている自分を恥だと情けなく思いながら、それでも自分にできることを探して前に進んで行きたい。そう思った。

 最後に、ゲバラのこの言葉を。
「死がどこで我々を襲おうとも、もし我々の戦いの雄たけびが、それを受止め得る人間の耳に一人でも届くなら、だれかの手が我々の武器を拾い上げ、また、だれかが機関銃の音の轟く中で、我々の葬送の歌に和し、新たな戦いへの雄たけび挙げるならば、我々の死はそれで充分報いられるのだ」 



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この記事へのコメント

2009年02月01日 00:05
見応えがある映画のようですね。そして、ゲバラという人物も素晴らしい。
普通ならばキューバで指導者としての地位に着いたのでしょうが、それを捨てて、他国の革命運動に身を投じる。なかなか出来ることではありません。
2009年02月03日 21:45
桃源児さん、いらっしゃいませ。人間として崇高な生き方を貫き通した姿は、(それが暴力に訴えるという手段であったとしても)偉大なことだと思います。 またのお越しをお待ちしております。
2009年02月03日 22:03
始めまして。
チェはカストロと違い政治家には向かない自分に早くから気付き、南米の革命家として生きる道を選んだのだと思いますが自らの理想を貫き通すことは、命の犠牲を生むことでもあって・・・
観ていて辛いものがありました。
2009年02月04日 22:01
komichiさん、こんばんは。
現実に政治や経済を動かす才に恵まれていなかった(元々医学部出身だから仕方ないのですが)こともありますし、キューバ一国のために尽くしたカストロと違って南米あるいは世界の搾取されている人々のために生きようとした理想を持つ以上は、現実の世界では結果的に自分を死地に追い込み、同時に他者の命を奪うことに繋がってしまうというのは避けられなかったのでしょうね。
この映画の後半は、この絶望的な状況でなおも人間としてのあり方を求める姿が印象的でした。
にゃむばなな
2009年02月10日 21:33
TBありがとうございました。
チェ・ゲバラの生き方ってある意味羨ましくなるくらいに格好いい生き方だと思います。
自分の信念に従って行動してますし、何よりも人を愛することをベースにおいて何事にもあたっているところが凄いと思いましたよ。
2009年02月10日 21:43
にゃむばななさん、こんばんは。
信念に従って行動するというのは、ほんとに難しいことですよね。あきらめや惰性で日常を過ごしてしまうか、あるいは一度は理想に燃えたもののやはり現実に埋没してしまうのが人の常ですから。
あのような過酷な状況の中で信念を貫き通した”意思”の力は凄まじいですね。
Ebony
2011年07月02日 03:07
Hey, that's poewrful. Thanks for the news.
koxxatsqqgh
2011年07月04日 19:41
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Fadillah
2012年09月07日 02:07
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